杢糸(もくいと)の作り方
糸に表情を生み出す ―― それが杢糸づくりの醍醐味です。
異なる色の糸を組み合わせて撚り合わせることで、ひとつの糸の中に奥行きや温かみを宿します。
同じ配合でも、撚りの強さや組み合わせ方ひとつで印象が変わる。
まさに職人の“手の感覚”が問われる仕事です。
① 糸の構成本数と色の選定
まず、使用する糸の本数や色の比率を決めます。たとえば、明るい色と暗い色を一定の比率で組み合わせることで、柔らかな杢調やコントラストの効いた表情を作り出すことができます。配色や本数のバランス次第で、最終的な印象が大きく変わるため、経験に基づいた緻密な設計が求められます。
② 色合い確認用のマス見本作成
次に、本社の編み機を使って「マス見本(試し編み)」を作り、実際の色の出方を確認します。同じ糸でも、編み方や光の当たり方によって色の見え方が変わるため、この工程で細かな調整を行います。納得のいく色味になるまで、試作と確認を繰り返すことで、理想の杢糸が完成します。
糸の特性を知り尽くした東洋紡糸だからこそできる技術と、色に対する感性の積み重ねが、他にはない杢糸づくりの強みです。
今季の杢カシミヤは、異なる色や番手の糸を、熟考して組み合わされた、独特の陰影と柔らかな奥行きが魅力です。グレーやベージュ、ネイビーなどの糸を重ねることで、光の加減や動きにあわせて繊細に表情を変えるニュアンスカラーが生まれます。その自然なグラデーションは、派手さではなく静けさの中に個性を宿し、素材本来の美しさをより深く引き立てます。その立体的で柔らかな色調は、TOYOBOSHIの長年にわたる紡績技術と感性が織りなす結晶です。ふっくらとした風合いとやさしい色のゆらぎを纏う、ユニークな杢の表現をお楽しみください。